海あり山あり湖あり。豊かな自然に恵まれた食の宝庫・浜松。なかでも浜松市の南西に位置する舞阪 町は、遠州灘で水揚げされた新鮮な海産物が揃う浜松唯一の港町です。
そして舞阪港は全国屈指の漁獲量を誇り、鮮度抜群の美味しさと見た目の美しさから、最高品質のシ ラスが獲れる漁港として知られています。
この地で1867年に創業した丸半堀江商店は、舞阪の上質な海産物を扱う老舗海産物店です。ツルツル した食感と旨味がたまらない<釜揚げしらす>。ふわりと繊細な口当たりが上品な<しらす干し>。
磯の香りが口いっぱいに広がる浜名湖の<ぶちのり>。どれも他では真似できない港町・舞阪の名産 品です。
今回は舞阪町の丸半堀江商店本店を訪れ、常務取締役の堀江良行さんと遠鉄百貨店の内田店長に、愛 され続けるこだわりの味についてお話を伺いました。
JR浜松駅から車で30分。舞阪町の丸半堀江商店本店に到着すると、潮風が海の近くにいることを知ら せてくれます。ここは港から車で5分のまさに港町。この海との近さが、じつはシラスの美味しさに大 きく関わっているのです。
堀江さん「シラス漁が盛んな地域は全国各地にありますが、舞阪はその中でも漁場と港の環境が特に 恵まれていると思います。水揚げした瞬間から鮮度が落ちてしまうシラス漁は、まさに時間との勝
負。漁場と港が近い舞阪港はシラス漁にとって最高の港なんですよ。シラスは鮮度が命ですから、今 のように全国に出回るようになったのは、保存や輸送の技術が進歩したここ数十年の話なんです。う
ちでは祖父の代からシラスを扱うようになりました」
2艘の船で海中に流した網を曳く「二艘船曳網(にそうふなびきあみ)」という漁法が舞阪から全国 へ広まったことから、ここ舞阪はシラス漁発祥の地とも呼ばれています。
黒潮に乗って現れたシラスは、浜名湖と天竜川から流入した淡水によってプランクトンが豊富な遠州 灘に集まり、荒波に揉まれて身が引き締まります。また遠州灘のシラスは、その美しさも自慢のひと
つ。シラスは海の環境によって体色が変化する魚で、黒い砂や暗い岩場では黒く変色し、遠州灘のよ うな白砂で遠浅の海では、青白く美しいシラスへと体色を変化させるのです。
堀江さん「舞阪のシラスは時期によっては輝くような白さとなり、全国でも随一の美しさを誇りま す。私たちは、この恵まれた漁場で獲れたシラスの品質を損なうことなく、お客様のところまで届け
ることを何よりも大切にしています。そのためにも、素材の良さに甘えることなく、仕入れから加 工、流通に至るまですべてに自分たちのこだわりを貫いています」
港から加工工場へ運ばれたシラスは直ちに塩水で釜茹でします。
堀江さん「茹でる際に加えるのは、シラス本来の旨味を引き立てる塩のみ。シンプルだからこそ、シ ラスも塩も、素材選びが大事になってきます。当店では舞阪港で水揚げされたシラスの中でもできる
限り上質なものを仕入れ、こだわりの塩で釜茹でしています」
釜茹でしたシラスは、そのまま食べる<釜揚げしらす>、少し干した<しらす干し>、さらに乾燥さ せた<上干ちりめん>の3種類があり、シラスの水分量が味と品質の決め手になっています。
丸半堀江商店の<しらす干し>は一匹一匹の大きさが揃ったごく細かいもので、白さと繊細な食感が 特徴です。舌に乗せた時のサラサラ感としっとり感のバランスが絶妙で、噛めば噛むほど磯の香りと
シラスの旨味が口いっぱいに広がります。この丸半堀江商店ならではのサラサラ感は、美味しさはも ちろんのこと、食の安全・安心にも大きく関わっています。
堀江さん「シラスはとても小さい魚ですから、網の中にはシラスと一緒に様々な異物が混入してしま います。当店では、美味しい食感に必要な水分量と異物除去に適した水分量を見極め、機械と人の手
で異物を丹念に取り除きます。この水分量へのこだわりが、美味しさの決め手となる独自のサラサラ とした食感を生み出しているんですよ」
手間をかけて異物を除去するためには、手を入れてもボロボロにならない上質のシラスを仕入れなけ ればなりません。<釜揚げしらす>は手を入れることもできないほど繊細なため、さらに異物が混入
していない最高クラスのシラスを仕入れています。
堀江さん「父から何度も言われたのは、常にお客様の立場で考えるということ。お客様を裏切らな い、自分で美味しいと思ったものしか出さないというのがうちの信条です」
衛生管理においても、全国トップクラスと自負する丸半堀江商店さん。その違いは、香りと日持ちの 良さでお客様にもすぐに実感していただけるそうです。
堀江さん「シラスを召し上がる時は、手掴みではなくお箸やスプーンなどを使って取り分けてくださ い。そうすることでさらに日持ちがよくなります」
お客様にお届けしたいのは、シラスの新鮮な美味しさだけ。素材そのままの味を生かすということ は、シンプルでありながら、じつは多くの手間と高い技術が求められるのです。
江戸時代から続く浜名湖の海苔養殖は、現存する養殖場の中で日本最古の歴史を誇ります。現在、浜 名湖で獲れる海苔はすべてヒトエグサと呼ばれる青海苔で、鮮やかな緑色と強い香りが特徴。生のま
まお味噌汁に入れたり、佃煮用として使われたりしています。
丸半堀江商店には、選び抜いた黒海苔を使った<特選焼き海苔>や、口どけの良い黒海苔を独自に味 付けした人気の<おかず海苔 > のほか、浜名湖海苔を使った<ぶちのり>など、こだわりの限りを尽
くして焼き上げた海苔が並びます。なかでも浜名湖海苔を使った<ぶちのり>は、喜ばれること間違 いなしの、浜松グルメの隠れた銘品です。
内田店長「<ぶちのり>は、浜名湖特産の青海苔と愛知県の黒海苔をブレンドした浜名湖地域独特の 乾海苔です。形状は一般的な焼き海苔と一緒ですが、色・香り・味は全く違うので、初めて食べる方
は驚かれます。温かいご飯もぴったりですが、蕎麦やラーメンなど汁物や入れても美味しいですし、 軽く炙るとさらに香りが引き立ちます。一種、嗜好品的な個性の強い海苔ですが、一度食べたらこの
香りにハマってしまう人が多いようです。先日もお寿司屋さんで初めて食べたというお客様から注文 をいただきました」
堀江さん「ご存じのとおり、ここ数年の海洋環境の変化によってシラスや海苔に限らず、全ての海産 物がその漁獲量を減らしています。限りある自然の恵みを大切にして、次の時代に残すためにも、自
分たちの目と手が届く範囲で商いをすることが大事だと思っています。お客様に安心して食べていた だいて、『美味しかった』と言ってもらえることが、私たちの何よりの喜びなんです。そのために
も、商品がお客様の手に届くところまで、すべての過程において徹底してこだわり続けていきたいと 思っています」
遠州灘と浜名湖の自然の恵みと、人の営みが育んだ最高のごはんのお供、シラスと海苔。素材そのま まの味を極めた最高にしあわせな組み合わせを、ぜひご家庭でご堪能ください。